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横浜地方裁判所 平成2年(レ)35号 判決 1991年1月22日

控訴人

横山康信

被控訴人

国内信販株式会社

右代表者代表取締役

塚本英志

右訴訟代理人弁護士

内藤政信

主文

本件控訴を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一被控訴人は本件控訴が不適法であるとして主文同旨の判決を求めたのに対し、控訴人は原判決の公示送達手続の違法を主張して争うので、以下、本件控訴の適法性について判断する。

二本件記録によると、平塚簡易裁判所は、平成元年五月二日、被控訴人の申立により、控訴人に対する支払命令を発し(同庁平成元年(ロ)第三五九号)、右支払命令正本を、支払命令申立書に控訴人の住所として記載されていた「平塚市唐ヶ原一二三―二平塚ガーデンホームズ二―三〇九」(以下「平塚の住所」という。)宛て郵送したが、受取人不在との理由で送達できず、その後、同所に再度郵送(日曜送達)を試みたが、受取人不在との理由で送達できなかったこと、同年六月一七日、被控訴人から控訴人の勤務先を調査したが不明である旨の報告書が提出されたので、同裁判所は、同年六月二二日、右支払命令正本を書留郵便に付して送達したうえ(右書留郵便は、受取人不在のため留置期間を経過して原審裁判所に還付された。)、同年七月二一日、被控訴人の申立により、右支払命令に対して仮執行宣言を付し、右仮執行宣言付支払命令正本を平塚の住所に宛て郵送したが、受取人不在との理由で平塚郵便局に留め置かれたのち、同年七月二九日、控訴人が右郵便局の窓口でこれを受領したこと、同年八月五日、控訴人が、右仮執行宣言付支払命令に対し適法に異議を申し立て、同裁判所平成元年(ハ)第九六号貸金請求事件として係属し、原審裁判所は、第一回口頭弁論期日を同年九月二八日に指定し、右期日呼出状及び答弁書催告状を平塚の住所に宛て郵送したが、受取人不在との理由で平塚郵便局に留め置かれたのち、控訴人が、同年八月二四日、右郵便局の窓口においてこれを受領したこと、同裁判所は、同年九月二八日の第一回口頭弁論期日に控訴人が出頭しなかったので、第二回口頭弁論期日(同年一〇月一二日)の呼出状を平塚の住所に宛て郵送したが、受取人不在との理由で返戻され、送達できなかったこと、しかし、控訴人は、同年一〇月一二日の第二回口頭弁論期日に出頭し、次回期日(同年一一月一六日)の告知を受けたが、第三回口頭弁論期日に出頭しなかったこと、そこで、原審裁判所は、次回期日を同年一一月三〇日と指定し、右呼出状を平塚の住所に宛て郵送したが、受取人不在との理由で平塚郵便局に留め置かれたのち、控訴人が、同年一一月二〇日、同郵便局の窓口においてこれを受領したこと、同年一一月三〇日の第四回口頭弁論期日には、控訴人も出頭したが、平成二年二月八日の第五回口頭弁論期日には、被控訴人代理人及び控訴人いずれも出頭しなかったため、訴訟手続は休止されたが、同年二月二三日、被控訴人代理人より口頭弁論期日指定の申立がなされたこと、その際控訴人に対する期日呼出状の送達について、被控訴人から公示送達の申立がなされたので、原審裁判所は平塚警察署に所在調査嘱託を行った結果、控訴人が、昭和六三年一月一六日から居住していた平塚の住所地のマンションが、同年一一月三〇日競売に付され、平成二年一月一二日、第三者(株式会社室町実業)に競落され、控訴人が転居し、平成二年三月頃には所在が明らかでないことが判明し、同裁判所は、同年四月六日、控訴人に対する書類の送達を公示送達によりなすことを許可し、第六回口頭弁論期日の呼出状を公示送達の方法により送達したこと、しかるところ、控訴人は、同年五月二四日の第六回口頭弁論期日に出頭し、裁判官に対し、住所は変更していない旨答弁し、次回期日の告知を受けたが、同年六月二一日の第七回口頭弁論期日に再び出頭しなかったこと、そこで、原審裁判所は、次回期日を同年七月一九日と指定したが、従前の公示送達の許可を取り消すことなく、右期日呼出状及び証拠申出書副本を、公示送達の方法により送達したこと、その後原審裁判所は、同年七月一九日の第八回口頭弁論期日に弁論を終結し、同年八月一六日、原判決を言い渡し、判決正本を公示送達の方法により送達したことが認められる。

以上の事実によれば、原審裁判所は、平成元年五月から同年一一月までの間、控訴人の平塚の住所に宛て前後七回にわたり、支払命令正本その他の書類を郵送し、いずれも受取人不在とされたが(もっとも、そのうちの三回は、控訴人が郵便局の窓口で右郵便物を受領している。)、控訴人の就業場所も明らかでなかったところ、競売に付されていた控訴人の自宅が競落されて、平成二年三月頃から控訴人の所在が不明となっていたのであるから、控訴人の住所、居所その他送達場所が知れないとして送達方法につき公示送達の許可をなした原審裁判所の手続に違法はない。また、その後、控訴人は公示送達による呼出に際し、一度口頭弁論期日に出頭したが、裁判官の釈明に対して従前の住所を答えたにとどまり、自己の真の住所を明らかにしなかったのであるから、控訴人の住所、居所その他送達すべき場所が知れない事態に変わりはなく、原審裁判所が公示送達の許可を取り消さずにその後の控訴人に対する書類の送達を公示送達の方法によってなしたとしても、これを違法ということはできず、他に原審の訴訟手続に違法な点は認められない。

三従って、控訴人に対する原判決は、公示送達の方法によって平成二年八月一七日送達の効力を生じたから、原判決に対する控訴はその翌日から起算して二週間以内にこれを提起しなければならないところ、本件記録によれば、本件控訴状は平成二年九月一九日に原審裁判所に提出されたことが明らかであるから、本件控訴は、控訴期間を徒過してなされた不適法なものとして却下を免れない。

四なお、控訴人は、右判決正本の公示送達がなされた時点において、出張中であったため、その送達を知りえなかったとして民訴法一五九条の訴訟行為の追完と解される主張をするので、この点について判断するに、前認定の経過に照らし、控訴人はその責に帰すべからざる事由により不変期間を遵守できなかったものではないというべきであり、また、追完が認められるのは、不変期間を遵守できない事由の止みたる後一週間内に限られるところ、本件記録によれば、控訴人は平成二年九月六日に原審裁判所において判決正本を受け取っているのであるから、それから一週間を経過した後に控訴状が提出された本件にあっては、いずれにしても、訴訟行為の追完が認められる余地はない。

五以上の次第で、本件控訴は不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担については同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官清水悠爾 裁判官前田博之 裁判官今村和彦)

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